神戸地方裁判所 平成8年(ワ)2387号 判決 1998年12月04日
原告・反訴被告
横山正英
ほか一名
被告・反訴原告
尾﨑大介
ほか三名
主文
一 原告横山正英は、被告尾﨑大介に対し、金二四三万一八〇九円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告横山利子は、被告尾﨑大介に対し、金二四三万一八〇九円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らの各請求及び被告尾﨑大介のその余の請求のいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、原告ら及び被告尾﨑大介に生じた分を五分し、その四を原告らの負担とし、その余を同被告の負担とし、被告尾﨑秀隆、被告尾﨑都、被告角屋陽平に生じた分を原告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 本訴
1 被告らは、原告横山正英に対し、連帯して金一九九八万三一三三円及びうち金一八一六万八一三三円に対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、原告横山利子に対し、連帯して金一九九八万三一三三円及びうち金一八一六万八一三三円に対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 反訴
1 原告横山正英は、被告尾﨑大介に対し、金五九五万七七四八円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告横山利子は、被告尾﨑大介に対し、金五九五万七七四八円及びこれに対する平成八年八月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した訴外亡横山若菜(以下「亡若菜」という。)の相続人である原告らが、被告尾﨑大介(以下「被告大介」という。)、被告尾﨑秀隆、被告尾﨑都に対しては民法七〇九条に基づき、被告角屋陽平に対しては自動車損害賠償保障法三条に基づき、それぞれ損害賠償を求める事案(本訴)、及び、本件事故により傷害を負った被告大介が、亡若菜の相続人である原告らに対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償を求める事案(反訴)である。
なお、本訴の付帯請求は、弁護士費用を除く内金に対する本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金であり、反訴の付帯請求は、本件事故の発生した日から支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
また、本訴における被告らの債務は、不真正連帯債務である。
二 争いのない事実
1 交通事故の発生
(一) 発生日時
平成八年八月七日午後一一時ころ
(二) 発生場所
神戸市垂水区南多聞台一丁目六番先 信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)
(三) 争いのない範囲の事故態様
被告大介は、自動二輪車(神戸に三六七九。以下「被告車両」という。)を運転し、本件交差点を北から南に直進しようとしていた。
他方、亡若菜は、原動機付自転車(神戸垂ひ三一一六。以下「原告車両」という。)を運転し、本件交差点を南から東へ右折しようとしていた。
そして、本件交差点内で、原告車両と被告車両とが衝突した。
(四) 亡若菜の死亡
亡若菜は、本件事故により、外傷性くも膜下出血、右肺挫傷、右血胸、多発骨折その他の傷害を負い、これにより、本件事故の発生場所で即死した。
2 相続及び身分関係
(一) 原告横山正英は亡若菜の父であり、原告横山利子は亡若菜の母である。そして、亡若菜の相続人は、原告両名である。
(二) 被告尾﨑秀隆は被告大介の父であり、被告尾﨑都は被告大介の母である。そして、被告大介は本件事故当時未成年であったから、被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都は、被告大介の親権者として、同被告を監護及び教育する義務を負う。
3 運行供用者
亡若菜は原告車両の運行供用者であり、被告角屋陽平は被告車両の運行供用者である。
三 争点
本件の主要な争点は次のとおりである。
1 本件事故の態様、並びに、これを前提とした亡若菜及び被告大介の過失の有無、過失相殺の要否、程度
2 被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都の責任原因
3 亡若菜に生じた損害額
4 被告大介に生じた損害額
四 争点1(本件事故の態様等)に関する当事者の主張
1 原告ら
被告大介は、本件事故の際、前方の安全をまったく確認しないまま、制限速度をはるかに超える時速約一〇〇キロメートルで被告車両を運転していた。
そして、被告車両が原告車両の左側面に衝突してきたため、原告車両は車体が二つに折れるほどの衝撃を受け、亡若菜も即死したものである。
したがって、本件事故は、被告大介の一方的な過失により生じたというべきであって、亡若菜には、過失相殺の対象となるべき過失はない。
また、自動車損害賠償保障法三条ただし書きにより、亡若菜は、被告大介に生じた損害について責任を負わない。なお、仮に亡若菜に何らかの過失があるとしても、被告大介の過失の方がはるかに大きいから、相応の過失相殺がされるべきである。
2 被告ら
原告車両と被告車両の衝突部位は、いずれも前輪であり、本件事故は、本件交差点に接近している被告車両の直前を、原告車両が無理に右折しようとしたために生じたものである。
また、原告車両は、右折の合図をすることなく、また、徐行をすることなく、本件交差点を右折しようとしていた。
これらの本件事故の態様に照らすと、本件事故に対する過失の割合を、亡若菜が八〇パーセント、被告大介が二〇パーセントとするのが相当である。
五 争点2(被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都の責任原因)に関する当事者の主張
1 原告ら
被告大介は、本件事故以前にも、無謀運転のため何度か人身事故を起こしている。
そして、被告尾﨑秀隆、被告尾﨑都は、親権者として、本件事故のような重大な事故が発生する危険性を十分に認識しながら、被告大介に対しての監督義務を果たしていなかったというべきであるから、右監督義務懈怠の過失と本件事故との間には相当因果関係がある。
したがって、被告尾﨑秀隆、被告尾﨑都は、民法七〇九条に基づき、亡若菜に生じた損害を賠償する責任がある。
2 被告尾﨑秀隆、被告尾﨑都
被告大介が本件事故以前にも人身事故を起こしたことがあることを否認する。
六 口頭弁論の終結の日
本件の口頭弁論の終結の日は平成一〇年一〇月九日である。
第三争点に対する判断
一 争点1(本件事故の態様等)
1 甲第一一号証の一ないし七、一一、一二、一七、一八、被告尾﨑大介の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、本件事故の態様に関し、前記争いのない事実のほかに、次の事実を認めることができる。
(一) 本件交差点は、ほぼ南北に走る道路とほぼ東西に走る道路とからなる十字路である。
このうち南北道路は、片側各二車線、両側合計四車線の道路であり、東西道路は、片側各一車線、両側合計二車線の道路である。
なお、南北道路の最高速度は、五〇キロメートル毎時と指定されている。
(二) 被告大介は、本件事故により負った頭蓋骨骨折等の傷害のため、本件事故の記憶がほとんどない。
また、本件事故の瞬間を目撃した者もいない。
(三) 本件事故後、本件交差点の南側横断歩道のすぐ北で、南行きの中央側車線上に、長さ一・六メートルの擦過痕が残された。そして、この付近が原告車両と被告車両の衝突地点であると考えるのが相当である。
(四) 本件事故により、原告車両は、車体中央部で折損、切断された。その前部は、右衝突地点から約三二・三メートル南方の南北道路北行き車線の西端部付近まで飛ばされて転倒した。その後部は、右衝突地点から約一九・七メートル南方の南北道路南行き車線の東端部付近まで飛ばされて転倒した。また、亡若菜は、座席のあった原告車両の前部とともに飛ばされ、右衝突地点から約二八・〇メートル南方の南北道路北行きの路端側車線上に投げ出された。
なお、原告車両は、前輪ホイルが左側に曲損し、フロントフォーク左側に黒色擦過痕が残り、前照灯、方向指示器は、破損、脱落した。また、原告車両の速度計は、時速約二五キロメートルを表示して停止した。
(五) 本件事故後、被告車両は、被告大介を乗せたまま、原告車両との衝突地点から約四〇・〇メートル南方の南北道路南行きの路端側車線まで逸走し、転倒した。そして、被告車両は、フロントフォークが曲損し、前照灯、回転計が破損した。
また、右転倒地点まで長さ約二五メートルにわたって、路面に、二条の擦過痕が断続的に残されている。なお、右擦過痕と前記認定の本件交差点内の擦過痕のほかには、本件事故の発生場所付近には、ブレーキ痕、擦過痕は認められない。
(六) 兵庫県警察本部刑事部科学捜査研究所の技術吏員は、兵庫県垂水警察署長からの鑑定嘱託に応じ、被告車両の本件事故時の推定速度はおよそ時速八〇ないし九〇キロメートル前後と判断する旨の鑑定書を作成した。
2 右認定事実によると、本件事故時の原告車両の速度は時速約二五キロメートル、被告車両の速度は時速八〇ないし九〇キロメートルとするのが相当である。
原告らは、亡若菜の左脇腹に被告大介のヘルメットが突き刺さった状態であった旨指摘し、被告車両の速度はさらに大きいものであった旨主張するが、右指摘を認めるに足りる証拠はなく、被告車両の速度についても右判断を左右するに足りる証拠は他にはない。
3 そこで、右認定事実を前提に、亡若菜の過失について検討する。
自動車、原動機付自転車又はトロリーバスは、右折するときは、あらかじめその前からできる限り道路の中央に寄り、かつ、交差点の中心の直近の内側を徐行しなければならない(道路交通法三四条二項)。
ここで、「徐行」とは、車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいい(同法二条一項二〇号)、原告車両が徐行していなかったことは明らかである。また、右認定の原告車両と被告車両との衝突地点に照らすと、原告車両の右折方法は、交差点の中心の直近の内側を通行するものではなく、いわゆる早回り右折というべきである。
したがって、本件事故に関し、亡若菜に過失があったことは明らかであり、原告らの自動車損害賠償保障法三条ただし書きの主張は採用の限りではない。
なお、被告らは、原告車両は被告車両の直前を右折した旨主張するが、後に判断する被告車両の速度違反との関係で、このことは亡若菜の過失の程度を判断するにあたっては考慮しないこととする。また、被告らは、原告車両は右折の合図をしていなかった旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
4 次いで、右認定事実を前提に、被告大介の過失を検討する。
車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、反対方向から進行してきて右折する車両等に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない(道路交通法三六条四項)。
ところが、本件交差点にいたるまで、被告車両のブレーキ痕はまったく残されていないから、被告大介が前方を注視しておらず、本件事故の発生まで原告車両を認識していなかったことは明らかである。
また、被告車両に時速三〇ないし四〇キロメートルの速度違反があったことは明らかである。
5 そして、右認定事実及び右判示した検討にしたがって亡若菜の過失と被告大介の過失とを対比すると、いずれの過失も看過することができないほど重大なものであったというべきであるが、優先車両の進行を妨害した点で、亡若菜の過失の方がより大きいといわざるをえず、具体的には、亡若菜の過失が六〇パーセント、被告大介の過失が四〇パーセントとするのが相当である。
二 争点2(被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都の責任原因)
本件全証拠によっても、被告大介が、いわゆる暴走族に加入するなどして、恒常的に無謀運転を繰り返していたことを認めることはできない。
原告らは、本件事故の一か月前にも被告大介は交通事故を引き起こした旨を主張するが、これが被告大介の過失によることを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、被告尾﨑大介の本人尋問の結果によると、もっぱら相手方当事者の過失によるものであることが認められる。
したがって、被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都には、本件事故のような重大な事故が起こることを予測することは不可能であったというべきであって、同被告らが被告大介に対しての監督義務を果たしていなかったということもできない。
よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの被告尾﨑秀隆及び被告尾﨑都に対する請求は失当である。
三 争点3(亡若菜に生じた損害額)
争点3に関し、原告らは、別表1の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、亡若菜の損害として認める。
1 損害
(一) 治療費
原告らは治療費の発生を主張しないが、被告らが自己に不利益な陳述として、治療費金一〇万七三一三円を主張するのでこれを検討する。
乙第一号証によると、被告車両が加入する自動車損害賠償責任保険から医療法人明仁会明舞中央病院に対して金一〇万七三一三円が支払われたことが認められ、甲第二号証、原告横山正英の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、これは本件事故後、亡若菜が搬入された同病院に対して支払われた治療費であることが認められる。
(二) 文書費
乙第一号証、弁論の全趣旨によると、文書費金二四五〇円の発生が認められる。
(三) 葬儀費用
甲第三号証、原告横山正英の本人尋問の結果によると、本件事故当時、亡若菜は満二二歳であったこと、医療法人明仁会明舞中央病院に勤める准看護婦であったことが認められる。
これらによると、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用を金一二〇万円とするのが相当である。
(四) 死亡による逸失利益
甲第九号証によると、平成七年に亡若菜が得た収入が金三〇三万七三四〇円であったことが認められる。
そして、亡若菜の死亡による逸失利益を算定するには、右金額を基礎として満六七歳までの四五年間の分を算定することとし、生活費として四〇パーセントを控除し、本件事故時の現価を求めるため、中間利息の控除を新ホフマン方式による(四五年に相当する新ホフマン係数は二三・二三〇七)のが相当である。
したがって、死亡による逸失利益は、次の計算式により、金四二三三万五七二〇円となる(円未満切捨て。以下同様。)。
計算式 3,037,340×(1-0.4)×23.2307=42,335,720
(五) 慰謝料
本件事故の態様、亡若菜の死亡の結果、原告横山正英の本人尋問の結果により認められる遺族感情、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた亡若菜の精神的損害を慰謝するには、金二二〇〇万円をもってするのが相当である。
(六) 小計
(一)ないし(五)の合計は金六五六四万五四八三円である。
2 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する亡若菜の過失の割合を六〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、亡若菜の損害から右割合を控除する。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金二六二五万八一九三円となる。
計算式 65,645,483×(1-0.6)=26,258,193
3 損害の填補
原告らが自動車損害賠償責任保険から金三〇〇〇万二四五〇円を受領していることは当事者間に争いがない。
そして、これは、右過失相殺後の金額を上回るから、被告らの主張するその余の損害の填補について判断するまでもなく、亡若菜の損害はすべて填補されたというべきである。
4 弁護士費用
原告らが本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であるが、亡若菜の損害はすべて填補されたというべきであるから、原告らの請求は理由がない。
したがって、弁護士費用も認める余地がない。
四 争点4(被告大介に生じた損害額)
争点4に関し、被告大介は、別表2の請求欄記載のとおり主張する。
これに対し、当裁判所は、以下述べるとおり、同表の認容欄記載の金額を、同被告の損害として認める。
1 被告大介の傷害等
まず、被告大介の損害額の算定の基礎となるべき同被告の傷害の部位、程度、入通院期間、その間の治療の経緯、後遺障害の内容、程度等について検討する。
甲第一一号証の一、二、乙第三ないし第五号証、第六号証の一、二、第七号証、第八号証の一の一、二、第八号証の二の一、二、第八号証の三、第八号証の四の一、二、第八号証の五ないし七、第九号証、被告尾﨑大介の本人尋問の結果によると、次の事実を認めることができる。
(一) 本件事故後、被告大介は、救急車により医療法人仁恵会石井病院(以下「石井病院」という。)に搬入され、平成八年八月八日から九月二日までの二六日間、同病院に入院した。
なお、同病院における診断傷病名は、右橈骨遠位骨端線離開、右尺骨茎状突起骨折、右鎖骨骨折、上顎骨骨折、頭蓋骨骨折、左眼球結膜下出血、左外傷性視神経障害等である。
(二) 被告大介は、平成八年九月四日から平成九年四月一〇日まで、石井病院に通院した(実通院日数一七日)。
なお、入院当初から平成八年九月一四日までは、被告大介はギプスを装着していた。
(三) 被告大介は、平成八年九月二七日から平成九年四月二五日まで、医療法人吉徳会あさぎり病院(以下「あさぎり病院」という。)の眼科に通院した(実通院日数六日)。
(四) 石井病院の医師は、被告大介の傷害は、平成九年四月一〇日をもって症状固定した旨の診断をした。
なお、右時点における症状は、視力低下、右顎関節痛、鼻閉感、開口制限、鎖骨部痛等であり、自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書(乙第三号証)には、これらは長期にわたって残存するものと思われる旨の記載がある。
また、自動車損害賠償責任保険手続において、被告大介の後遺障害は、自動車損害賠償保障法施行令別表一二級一二号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当する旨の認定がされた。
2 損害
(一) 治療費
乙第六号証の一、二によると、石井病院の治療費(患者負担分)金二八万四〇六八円を認めることができる。
乙第八号証の一の一、二、第八号証の二の一、二、第八号証の三、第八号証の四の一、二、第八号証の五ないし七によると、あさぎり病院の治療費等金二万九六八〇円を認めることができる。
このほかに、被告大介は、石井病院の健保支払分金六四万八五九八円を主張し、乙第六号証の一、二によると、石井病院の治療は、健康保険を利用してされたことが認められる。ところで、健康保険法六七条一項、国民健康保険法六四条一項は、給付事由が第三者の行為によって生じた場合において、保険者が保険給付を行ったときは、保険者はその給付の価額の限度において被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を取得する旨を定めているから、被告大介が健保支払分を請求することができないことは明らかである。
よって、治療費は、金三一万三七四八円の限度で理由がある。
(二) 入院雑費
右認定のとおり、被告大介は、石井病院に二六日間、入院した。
そして、入院雑費は、入院一日あたり金一三〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、次の計算式により、金三万三八〇〇円となる。
計算式 1,300×26=33,800
(三) 付添看護費
乙第九号証、弁論の全趣旨によると、平成八年八月八日から同月一五日までの八日間、入院中の被告大介には付添看護が必要であったこと、現実に被告大介の家族が付添看護を行ったことが認められる。
そして、付添看護費としては、一日あたり金五五〇〇円の割合で認めるのが相当であるから、次の計算式により、金四万四〇〇〇円となる。
計算式 5,500×8=44,000
被告大介は、その後の入院期間中も母親が付添看護した旨を主張し、この間は一日あたり金二二五〇円の割合で付添看護費を請求する。しかし、平成八年八月一六日以降の付添看護が必要であり、また、相当であったことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、乙第九号証に照らすと、これが不要であったことが窺えるから、同被告の右請求を認めることはできない。
(四) 通院交通費
被告尾﨑大介の本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、石井病院への通院交通費が一日あたり金六四〇円であったこと、あさぎり病院への通院交通費が一日あたり金四〇〇円であったことが認められる。
したがって、通院交通費は、次の計算式により、金一万三二八〇円となる。
計算式 640×17+400×6=13,280
(五) 休業損害
乙第一〇号証、被告尾﨑大介の本人尋問の結果によると、本件事故当時、被告大介は、夜間高校に通学するかたわら、日通商事株式会社に勤務し、ガソリンスタンド店員として働いていたこと、本件事故の直前にあたる平成八年六月一日から八月七日までの六八日間の収入が合計金三一万四三四〇円であったこと、平成一〇年四月ころまでは、どこにも勤めていないことが認められる。
そして、前記認定の被告大介の傷害の部位、程度、後遺障害の内容、程度に照らすと、同被告の休業損害を算定するにあたっては、右収入を基礎に、本件事故の発生した日の翌日である平成八年八月八日から症状固定日である平成九年四月一〇日までの二四六日間について算定するのが相当であるから、次の計算式により、金一一三万七一七一円となる。ただし、被告大介の請求する休業損害は金一一三万七〇一二円であるので、この限度で認めることとする。
計算式 314,340÷68×246=1,137,171
(六) 後遺障害による逸失利益
被告尾﨑大介の本人尋問の結果によると、同被告は、本件事故後、高校を卒業したこと、平成一〇年四月ころから、ガソリンスタンドで就労を始めたことが認められる。
そして、前記認定の被告大介の後遺障害の内容、程度によると、被告大介の後遺障害による逸失利益を算定するにあたっては、賃金センサス平成八年度第一巻第一表の産業計、企業規模計、男子労働者、旧中・新高卒、一八~一九歳に記載された金額(これが年間金二四四万〇四〇〇円であることは当裁判所に顕著である。)を基礎に、症状固定時(満一八歳)から満六七歳にいたるまでの四九年間、労働能力の一四パーセントを喪失したものとして、中間利息の控除につき新ホフマン方式(本件事故時、被告大介は満一七歳であり、一年に相当する新ホフマン係数は〇・九五二三、五〇年に相当する新ホフマン係数は二四・七〇一九)によるのが相当である。
したがって、後遺障害による逸失利益は、次の計算式により、金八一一万四一九三円である。
計算式 2,440,400×0.14×(24.7019-0.9523)=8,114,193
(七) 慰謝料
前記認定の本件事故の態様、被告大介の傷害の部位、程度、入通院期間、その間の治療の経緯、後遺傷害の内容、程度、その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故により生じた被告大介の精神的損害を慰謝するには、金三六〇万円をもってするのが相当である(うち後遺障害に対する慰謝料相当額は金二四〇万円である。)
(八) 小計
(一)ないし(七)の合計は金一三二五万六〇三三円である。
3 過失相殺
争点1に対する判断で判示したとおり、本件事故に対する被告大介の過失の割合を四〇パーセントとするのが相当であるから、過失相殺として、同被告の損害から右割合を控除する。
したがって、右控除後の金額は、次の計算式により、金七九五万三六一九円となる。
計算式 13,256,033×(1-0.4)=7,953,619
4 損害の填補
被告大介が、自動車損害賠償責任保険から金三四四万円を受領していることは当事者間に争いがない。
したがって、これを過失相殺後の損害から控除すると、金四五一万三六一九円となる。
5 弁護士費用
被告大介が本訴訟遂行のために弁護士を依頼したことは当裁判所に顕著であり、右認容額、本件事案の内容、訴訟の審理経過等一切の事情を勘案すると、原告らが負担すべき弁護士費用を金三五万円とするのが相当である。
6 相続
原告らが亡若菜を相続したことは当事者間に争いがない。
したがって、原告らそれぞれが負担すべき損害賠償債務は、各金二四三万一八〇九円となる。
第四結論
よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却し、被告大介の請求は、主文第一項及び第二項記載の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条本文、六五条一項本文を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 永吉孝夫)